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開業後も扶養に入れる?

開業届後も配偶者の扶養に入れる?扶養のまま開業する要件と注意点

働き方

2024.07.07

開業を考えている方の中には、「配偶者の扶養に入ったままで事業を始められるのか?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。

また、扶養から外れることで「健康保険や税制面での負担が増えるのでは?」と懸念する方も多いかもしれません。

本記事では、配偶者の扶養に入ったままで開業するための条件や注意点について解説します。開業届の提出後も扶養を維持するための要件を理解し、適切に対応しましょう。

開業届後も配偶者の扶養に入れる?

配偶者の扶養に入っている方が新たに事業を始める際、扶養のままでいることで健康保険や税制上のメリットを受けたいと考える方は多いでしょう。

実際、自身の収入に影響する問題でもあるため、きちんと理解しておく必要があります。ここでは、開業届提出後も配偶者の扶養に留まるための要件をお伝えします。

個人事業主・開業者でも扶養に入れる

個人事業主として開業し、税務署に「青色申告承認申請書」(個人事業主が青色申告をするために税務署に提出する書類)を提出して青色申告をしている場合でも、所得の条件を満たしていれば配偶者の扶養に入れます。

青色申告者が受けられる「青色申告特別控除」に関しても、配偶者の扶養に入っていても利用可能です。

また、青色申告に対し白色申告という所得税法において、特定の条件を満たす個人事業主が適用される税制度もあります。

青色申告は特例措置により税負担を軽減するメリットがありますが、白色申告は正確な申告による信頼関係の構築と税務上の安定が目的です。

個人事業主は、年次において自らの事業によって得た収入を申告する義務があり、事業の売上や経費、利益などを正確に記載し、確定申告書を提出します。

参考:青色申告制度|国税庁

条件次第で扶養から外れる

事業を始めて収入が増えると、所得の増加によって扶養の条件から外れる場合があります。

所得税と健康保険の両方が関係しており、所得が一定の基準を超えると、扶養控除や配偶者控除が受けられなくなるのです。

また、所得が一定の基準を超えると健康保険の扶養からも外れるため、自分で健康保険に加入する必要が出てきます。

参考:自営業のご家族が被扶養者になれる条件

個人事業主が理解しておきたい扶養の種類

個人事業主として開業する際には、自身のビジネスに集中することはもちろんですが、税金や保険に関する知識も重要です。

特に「扶養」に関するルールは、事業を始めた後の収入によって変わるため、しっかり理解しておきましょう。

ここでは、個人事業主が知っておくべき扶養の種類について解説します。

所得税法上の扶養

所得税法上の扶養とは、配偶者や子どもなどを扶養している場合、一定の条件を満たすと適用される税制上の優遇措置です。代表的なものには扶養控除や配偶者控除があげられ、これらは所得の減少とともに税負担が軽減します。

しかし、扶養される人の所得が一定の基準(配偶者の場合、年間103万円以下)を超えると、この控除が適用されなくなります。

個人事業主の場合、事業収入が増えると扶養の条件となる金額を超えてしまうことがあるので注意が必要です。

社会保険の扶養

社会保険の扶養とは、健康保険や年金において、収入が一定額以下の家族が扶養に入ることです。扶養に入っていると、その家族は保険料を負担せずに健康保険の給付を受けられます。

しかし、扶養される人の年間収入が130万円(60歳以上や障害者の場合は180万円)を超えると扶養から外れ、自分で健康保険に加入する必要があります。

個人事業主として事業所得が増える場合は、この点に注意してください。

開業届後に個人事業主が扶養に入るメリット

個人事業主として仕事を開始した後、配偶者や家族の扶養に入ることには多くのメリットがあります。

さっそくどのような恩恵があるのか、具体的に見ていきましょう。税制や社会保険の観点から家計をサポートできるかもしれません。

所得税法上のメリット

所得税法において、個人事業主が配偶者の扶養に入ると、配偶者(納税者)は所得税や住民税において配偶者控除や配偶者特別控除を受けられます。

しかし、配偶者控除を適用するには、扶養される個人事業主本人と配偶者の双方が一定の年間所得制限を満たす必要があります。

具体的には、扶養される個人事業主の年間所得合計が48万円以下で、配偶者の年間所得合計が1,000万円未満であることが条件です。

また、扶養される個人事業主の所得合計が48万円(令和元年分以前は38万円)を超え、133万円以下の場合は、配偶者控除ではなく配偶者特別控除が適用されます。

この配偶者特別控除の額は、個人事業主の所得合計額および納税者の所得合計額に応じて異なります。

社会保険のメリット

社会保険において、個人事業主が配偶者の扶養に入ることで得られるメリットは主に二つあります。

まず一つ目は、個人事業主が被扶養者となることで第3号被保険者に該当し、国民年金の保険料の支払い義務が免除される点です。例えば、2022年度の場合、月額16,590円の国民年金保険料の支払いが不要になります。

二つ目は、配偶者(被保険者)の健康保険に被扶養者として加入できることです。被扶養者になると、追加の費用を負担することなく健康保険の給付を受けられます。

ただし、個人事業主が配偶者の扶養に入るには、所得要件を満たしていることが条件です。

個人事業主が配偶者の扶養に入るときの注意点

個人事業主の場合、配偶者の扶養に入ることで、税金や社会保険に影響を及ぼすことがあります。

扶養に入る際の注意点やメリットを把握し、自身の収入や家族の状況に応じて適切な対応を取りましょう。

103万円の壁・150万円の壁は気にしなくてよい

被扶養者が給与所得者の場合、配偶者の扶養に入るためには、年収が103万円以内である必要があります。

また、配偶者特別控除も同様に、被扶養者の年収が150万円を超えると控除額が減少する「150万円の壁」が存在します。年収が201万円を超えると控除が適用されなくなります。

一方、個人事業主の場合、これらの壁を意識する必要はありません。年収が48万円以下であれば「配偶者控除」、年収が48万円を超えて133万円以下の範囲では配偶者特別控除が適用されます。

社会保険の被扶養者要件に注意する

個人事業主が配偶者の扶養に入る際に注意すべき点は「130万円の壁」です。

社会保険の被扶養者要件では、配偶者の収入には制限がありませんが、個人事業主自身の事業収入から必要経費を差し引いた金額が年間130万円未満である必要があります。

つまり、個人事業主の年間収入が130万円を超えると、社会保険の被扶養者として認められなくなります。この「130万円の壁」に注意しましょう

正しい経費計上がポイントになる

正しい経費計上は個人事業主にとって非常に重要です。

まず、経費を正しく計上することで、支払う所得税が少なくなります。これは、事業から得た収入から経費を差し引いた金額が課税対象となるためです。

また、社会保険の扶養条件を満たすためにも、正確な収入と経費の把握が必要です。

正確な経費計上は事業の健全性を示し、経営の透明性と信頼性を高める要素となります。税務署の基準に従い、必要な経費を適切に管理し、個人事業主としての義務を果たしましょう。

配偶者の扶養に入ることが得とは限らない

実は、個人事業主が配偶者の扶養に入ることがいつも良い選択とは限りません。

配偶者控除や配偶者特別控除の金額には限度があり、場合によっては扶養に入れたことによる税金の節約効果がそれほど大きくないケースがあるからです。

また、配偶者の所得が高くなると控除額が減少し、節税効果が低くなる可能性があります。

事業主は自分の収入を少なく抑えて配偶者の扶養に入るか、逆に扶養から外れて自分の収入を増やすか、比較、検討する必要があります。

特に、社会保険に関しては、配偶者の扶養から外れると自分で健康保険や公的年金を支払わなければならなくなります。控除額や社会保険料の負担がどのように変わるかを理解し、事前に計画を立てることが大切です。

これらの制度や届出の種類など、最初からスムーズに理解し進めるのは難しいかもしれません。自分で進めるのは難しいと感じる場合は、税理士や市区町村の専門窓口に相談にいくことをおすすめします。

開業後に確定申告を行う際のポイント

起業後、税金の申告と支払いを正しく行うことは、事業の健全な成長に欠かせません。確定申告は事業運営において不可欠です。

申告と支払いをスムーズに行うために、確定申告への理解を深めておきましょう。

扶養控除や配偶者控除の対象になると確定申告の義務がない

会社員の給与所得者が家族や配偶者を扶養することで控除を受ける場合、確定申告書の作成や提出は必要ありません。扶養控除等(異動)申告書の提出によって配偶者控除が反映され、年末調整時に扶養控除や配偶者控除を受けられるからです。

すべて企業が行ってくれるため非常に楽だと言えます。しかし、他の収入や独自の収入源がある場合は状況が異なります。

例えば、副業やアルバイトなどで給与所得以外の収入がある場合や、不動産所得、株式配当などの収入がある場合、確定申告が必要となります。

確定申告で正確な所得を申告することで、結果的に適切な税額を納められるのです。

さらに、年末調整で控除を受ける場合でも医療費控除や寄付金控除など、年末調整で申告できない特別な控除がある場合は確定申告が必要です。適正な税負担を実現するためにも、毎年しっかり行いましょう。

このように税務署への申告は、所得税の計算を正確に行うための重要な手続きです。

収入源が複数ある場合や、特定の控除を受けるためには確定申告が必要なケースがあります。自分の収入状況を正確に把握し、正しい手続きを行いましょう。

青色申告は赤字の繰越ができる

青色申告を選択すると事業で赤字が出た場合でも、その損失を次の年度に繰り越せます。この仕組みは事業を営む個人事業主や法人にとって非常に有利です。赤字の繰越は最大で3年間可能です。

また、赤字を翌年以降の利益と相殺することで、課税対象となる所得を減少させられます。

例えば、今年100万円の赤字が出た場合、翌年に200万円の利益が出たときにその赤字100万円を引き算して、課税対象となる所得を100万円に減らせるのです。

確定申告は住民税の申告も兼ねている

通常、確定申告書を税務署に提出すると、その情報は自動的に市区町村にも送られます。市区町村はこの情報をもとに住民税を計算し、住民税の納付書を送付します。確定申告を行えば、そのまま住民税の申告も同時に済ませられるのです。

また、確定申告と住民税の申告期限は、通常翌年の3月15日です。確定申告と住民税は同時に申告できるため、申告漏れのリスクは低いと言えるでしょう。

扶養に関するよくある質問

扶養の種類や要件は、初めて手続きしようとする人にとっては難しく感じる場合もあります。

ここでは、扶養に関してよくあがる質問に答えました。手続きや要件など、ぜひ参考にしてください。

開業届を出すと扶養から抜けますか?

配偶者や親など、家族の健康保険の被扶養者である場合、開業届を出すことで扶養から外れる可能性があります。

例えば、夫の健康保険に扶養されている妻が開業届を提出するケースを見てみましょう。

妻の年間収入が130万円未満であれば、扶養のままでいられる可能性があります。しかし、妻の収入が130万円を超えた場合、健康保険の被扶養者資格を失い、自身で国民健康保険に加入しなければなりません。

また、開業届を出した時点で扶養資格を失う健康保険組合もあります。被保険者が加入している健康保険組合の規定を確認しておきましょう。

パートしながらの個人事業主でも扶養に入れる?

個人事業主とパートを掛けもちしながら扶養に入ることは可能です。しかし、その際にも収入の制限があります。パートやアルバイトで扶養に入る場合と同様に、所得が一定の基準額を超えないように注意をしてください。

一般的には年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)が条件ですが、これは健康保険組合によって異なります。被保険者が加入している健康保険組合の規定を確認しましょう。

個人事業主が扶養から外れる場合の手続きはどこでする?

個人事業主が扶養から外れる場合の手続きは、通常、市区町村役場や税務署で行います。
具体的な手続き方法や必要書類については、役所や税務署の窓口で詳細を確認しておくと安心です。

なお、扶養から外れることで、税務上の所得や控除の計算方法が変わる場合がある点に注意しましょう。

経済状況にあった最適な選択をしよう

個人事業主も条件次第で家族の扶養に入ることが可能です。ただし、扶養条件は税法と社会保険法で異なりますので、それぞれの要件を確認する必要があります。

特に、税法上の所得基準と社会保険上の年収基準に留意することが重要です。

主婦起業でおすすめの職種や軌道に乗せるステップについて以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

個人事業主が同居している家族の扶養に入ることで得られるメリットとデメリットを照らし合わせ、家庭の経済状況にあった最適な選択をしましょう。